徒然草第一段 欲にまみれてエンヤコラ

「いでや、この世に生まれては、願わしかるべきこそ多かめれ」
兼好法師は20代で出家して、徒然草は50歳ころに書かれたのだろうというのが、現代の研究の成果とのことだ。出家した坊さんが、第1段で、「願わしかるべきこそ多かめれ」である。なかなか素敵な坊主なのだ。禅宗のエライ坊さんが、臨終に際して、「死ぬのが怖い、死ぬのが怖い」と言い続け、弟子が「師匠、あんまりにも見苦し過ぎます」と諌めたのに対して、「何をいうか、そんな生易しいモンジャないんだぞ」と言い放ったという話を思い出す。
出家して何十年。「心にうつりゆく由無し事」の最初が、「願わしかるべきこそ多かめれ」なのだ。もちろん、俺たち凡人とは、「多かめれ」のレベルが違うのだろうけどな。
ネットが販売のツールとして浸透してきたけど、物欲の刺激は実に巧みになっているよな。いつでも、どこでも、通信ができれば、モノが買えてしまうしなぁ。
物だけじゃなくて、地位とか名誉とか愛憎とか、人間関係も社会も複雑だ。兼好法師の時代の宮中も、そうとうすごかっただろうなぁと想像されるけども、現代社会のビジネスのフィールドにも、ある種の陰湿さもあったりするしなぁ。ライバル会社に対してではなく、自社の中での、背中から刺される、足をひかれる・・・て、けっこうえげつないよなぁ。それを勝ち抜いて「願わしかるべき」を実現しようとする日々。
兼好法師が、宮廷人、宮仕えであったということが、この言葉に何か凄みを感じるのだ。サラリーマンの経験のある人とない人では、言葉が変わってくるように、最初から坊さんじゃなかったことが、「願わしかるべきこそ多かめれ」に重みを増す。
欲にまみれてエンヤコラ。最近は、カーチャンのためならエンヤコラなんて、ヨイトマケを知っている人も少ないだろうな。

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